【第三話】 恋木神社

「恋木神社」 鈴木おさむ   33歳。独身。私は美人かブスかでいうと美人な方で、5人でコンパに行けば、2番目くらいではモテてきた方だ。大学を出てからずっと、女性に人気の国内鞄ブランドの広報部で働いてきた私は、社内でも、モテるかモテないかでいうとモテる方だ。 特に上司からのウケはいい。というのも、私の会社には、1970年代の第二次ベビーブーム生まれだとかの上司が多く、上司たちはカラオケに行くと、中森明菜派だったか、小泉今日子派だったかで議論になる。そんな中、私は上司ウケ狙いで覚えた中森明菜の「DESIRE」を歌い盛り上げる。飲み会の帰りには、大体上司にこっそり二軒目に誘われるが、社内不倫は面倒なので、断り続けている。 そんな私は、今、神社に来ている。福岡県筑後市の水田天満宮の中にある神社「恋木神社」。ここは日本で唯一「恋命」を祀っている、恋愛のパワースポットと呼ばれている場所だ。3年前にもここに来た。

 あの時は、神頼みなんかしたくなかったけど、友達に誘われて初めてやってきた。その時、私を誘ったのは、大学の時からの友達。というか親友の瑞希。コンパに行けば、瑞希は5人中3番から4番。瑞希のことを親友といいながらも、私にとっての安心材料だったのかもしれない。私を抜くことはないであろうという絶対の安心感。それが彼女と親友関係でいたかった理由なのかもしれない。 瑞希には5年間彼氏がいなかった。前に付き合っていた彼氏は瑞希とは別にもう一人彼女がいたらしい。二股だ。それを瑞希が知って「私と彼女、どっち取るの?」と迫ってみたらあっさりもう一人の彼女を取ってしまったという。つまりは瑞希は自分が一軍だと思ってたら、二軍だったことが判明したのだ。そのことで男性不信。「恋に臆病になった」と言っていた。でも、私からしたら、臆病にならなかったとしても、彼女に彼氏ができるチャンスは少なかったはずだ。

 3年前にこの「恋木神社」にくるのがあまり乗り気でなかったのは、女性二人で恋愛の神社なんて行って、周りから見たら、いかにも婚期をちょい逃ししたアラサー女性に見えるんじゃないかと思っていたからだ。 だけど、実際に恋木神社に来てみると、神社といいながらもそのちょっとしたテーマパーク感に浮き足立った。 そもそもこの神社がどういうものなのかと、行く前にGoogleに頼ってみた。どこぞの神主さんが商売っ気を出して、最近作った神社なんじゃないかと思っていたら、そんなことはなかった。「恋木」の「木」は東を意味していて、菅原道真公が太宰府で生涯を終えるまで、都の天皇と妻子を思う御心に対して、せめて御霊魂だけは慰めようと祀られたらしい。 人はブランドに弱い。神社だって同じ。菅原道真という誰しも一度は聞いたことのある名前が前に出ていることで、いかがわしいものなんじゃないかという疑いは晴れた。

 実際に来てみると、「あふれるほどの愛に恵まれますように。素敵な出会いで幸せになりますように」と願いの込められた恋木鳥居にはハートが10個もデコレーション、いや、飾られている。恋参道と呼ばれる参道もあり恋木絵馬、ハート陶板守などのグッズ……って言っていいのかな、まあ、そういうのも販売されていた。もちろん買えるグッズは全て買ってしまったんだけど。 樹齢600年の幸福の一位の木という木もあり、左・右・左と回ると、幸せが訪れると言われていて、瑞希と一緒に声を出しながら、少し照れながらも回ってみたりした。 良縁成就のお祭りが行われる月と前の月の2月3月、10月11月はおみくじがピンク色に変わるらしく、たまたま自分が行った月が2月だったので、「なんかタイミングいいじゃん」とか言ってテンション上がっていた。今考えると、1年のうちに4か月あるのだから、3分の1って結構な確率だなと思うけど、旅に出ると人は全ての体験にプレミア感をつけたがる。やらないと思っていた御祈願もお願いした。初穂料、5000円。 御祈願が終わったころには、最初あった恥ずかしさなんてすべてすっ飛んでいて、本当にいい出会いがあるんじゃないかと思える力強さがみなぎっていた。祈ることはすごい。神様に祈りながら自分で自分の背中を押すからだ。

イラスト

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