【第七話】恋する学園

二カ月ほど前のことである。 後期試験が終わった二月の第一金曜日に、イケメンくんと二番手くんは、本命ちゃんと引き立て役ちゃんを誘ってドライブに行った。前述したが、イケメンくんと二番手くんは、表面的には仲の良い親友同士なのだ。 言いだしっぺはイケメンくんだった。じつのところ、本命ちゃん争いのレースで、イケメンくんは意外にも二番手くんにすっかり水をあけられていた。それというのも、二番手くんのアルバイト先がいまハイセンスな人たちのあいだで話題になっているフリーペーパー〈BOND〉を出しているデザイン事務所で、二番手くん自身も何度か取材を受けてテレビに出ていたからである。人間とは不思議なもので、テレビ越しのほうが一段と立派に見えてしまう。しかもこの就職氷河期にすでにその事務所から内定をもらっているとあっては、本命ちゃんの目に二番手くんがまぶしく映るのも致し方ないことだった。

幼稚園のころからなんでも思い通りに生きてきたイケメンくんにしてみれば、これはゆゆしきことであった。プライド、いや、沽券にかかわる問題である。三馬身ほどのこの後れを、どうにかひっくりかえさねばならない。そこで一計を案じ、起死回生をかけたドライブに関係者各位を誘い出したのだった。勝算はあった。 それというのも、医学部にかようイケメンくんの家はお金持ちで、誕生日プレゼントにアウディA5を買ってもらったばかりだったのである。彼はラルフ・ローレンのブレザーを小粋に着こなし、左手に六十万円のロレックスをはめ、ジュースホルダーには最新型のiPhoneをしっかりと差しこんで勝負に出た。 欲の皮が突っ張った本命ちゃんがこのようなラグジュアリーな記号を見逃すはずがない。ふわりとカールさせた髪、耳たぶに光るティファニーのピアス、死にもの狂いでアルバイトして買ったプラダのコートを羽織り、足元は言うまでもなくクリスチャン・ルブタン。 そんな本命ちゃんがイケメンくんの財力を目の当たりにして、マスカラをこってり塗りたくった睫毛をパチクリさせないはずがなかった。

2/8