【第六話】 伝え方が1割の男

新人に対してだけじゃない。小柳は取引先に対してもちょっと、いや、かなり問題があった。大至急の納品があり、町の印刷所である加藤印刷にお願いしたときのこと。ここは加藤社長ひとりで切り盛りしているけど、技術には定評があるところだ。 「その日程やと、ちょっと間に合わんねえ」 との返答を、ボクから小柳にとりつぐと、 「どげんかせんかって、言え! 出入り業者なんやから」 その甲高い声は、携帯ごしにも聞こえてしまっていたかもしれない。間に立たされたボクは、たまったもんじゃなかった。ふだんから顔色が悪いと言われるボクも、このときばかりは映画アバターのナヴィ族なみの青さだったと思う。携帯ごしに、腹筋が鍛えられるくらいおじぎして加藤社長に頼み込んだが、

 「……山本くんには悪いけど、あんたんとこの仕事はうけられんよ」 そう言われ、切られた。別の印刷所を探すのも大変だったが、何より痛手だったのは、加藤印刷との取引がなくなったことだった。 クライアントに対しても同じだった。 ボクら営業が何度も通ってプレゼンにたどり着いた「ひよ子本舗 野堂」。ここの主力商品、ひよ子の広告を提案することになったときのこと。営業の目からしても、アイディアには自信があった。 小柳が話しだした。 「このお菓子の一番の魅力は、カタチです」 小柳はポスター案を、テーブルの上に置いた。

「ひよ子をお菓子と考えるのではなく、生き物として考えましょう。今の菓子箱を和菓子風ではなく、鳥小屋のようなデザインに。店頭のディスプレーも鳥小屋に入った、ひよ子というイメージで」 それは従来の和菓子のポスターではなかった。ひよ子が、まるで生きているかのように鳥小屋をエンジョイしているビジュアルだ。 「写真の撮られやすさを考えるのです。いまは、SNSの拡散がものを言う時代です。和菓子を買わない若者たちにも、もっと愛されるものになりますよ」 これを世の中に出せたら、かわいいものになっていただろう。評判にもなるかもしれない。みんな期待感をこめて反応を待った。……自然と、ひよ子の宣伝担当者に視線が集まった。 「わかるのですが、当社にはちょっと合わないかと」

時代の流れに合わせて、何かを変えたいと宣伝担当者からは聞いていた。しかし、長年培ってきた和菓子のイメージに自信もあったし、本当にそんなチェンジをしてしまっていいか信じ切れなかったのかもしれない。自信満々だった小柳の顔がくもった。 「このデザインこそ、御社にベストなデザインです。世の中は刻々と変化しています。御社も変わらないと。まあ……わからんかもしれませんが」 これでプレゼンは終了した。なんとも後味の悪い終わり方だった。帰り道に誰もが思った。 『社長のあの言い方はないよな……』 ひとつひとつ積み上げてきたものを、数秒のコトバで崩されてしまう。無力感に涙が出そうになる。怒りでも悲しみでもなくただ、じぶんの無力感が悔しかった。ボクもそろそろ転職を考えるときかもしれない。きっと他のみんなもそう思っているだろう。歩きながら小柳がつぶやいた。 「なんで、わからんとや。あそこの会社のためなのに……」ひとつだけ小柳をかばうことができるなら、実は悪気がないのだ。子どものように思ったまま話してしまう悪いクセがあった。そのクセが原因で、会社はゆるやかに崩壊しようとしていた。

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